人口減少とデジタル化の進展異業種参入による競争激化に直面する中小企業経営者にとって既存のビジネスモデルが今後も通用するのかという不安は深刻です。
特に製造業では電動化や自動化の波に対応しながらどのように事業領域を拡大し収益構造を多角化するかが重要な課題となっています。
今回は小型モーター業界で高いシェアを持つ<マブチモーター>の2024年から2025年にかけての動向を時系列で分析しどのような戦略転換を図っているかを検証します。
中小企業も大企業も日本の市場においては同じ外部環境のもとで懸命に営業活動をしています。
大企業の課題や経営判断を観察して自社の経営に活かせるヒントを見つけていただければと思います。
今日の企業事例は第516話(画像はイメージです)ミッション、ビジョン、バリュー【経営理念】国際社会への貢献とその継続的拡大【経営基軸】
- より良い製品をより安く供給することにより豊かな社会と人々の快適な生活の実現に寄与する
- 広く諸外国において雇用機会の提供と技術移転を行いそれらの国の経済発展と国際的な経済格差の平準化に貢献する
- 人を最も重要な経営資源と位置付け仕事を通じて人を活かし社会に役立つ人を育てる
- 地球環境と人々の健康を犠牲にすることのない企業活動を行う
【経営指針】
- 汎用性を重視した製品を開発しその最適生産条件を整備する
- 価値分析に徹した製品の開発改良と部品・材料の共通化を徹底する
- 高度加工技術とムダの極小化によるコストダウンを追求する
- 新市場を開拓し適正占有率を確保する
- 適材適所による人材の活用と業務を通じた人材育成を行う
- 環境負荷の極小化と安全の追求を基本とした企業活動を推進する
- 長期安定的視点に立つ経営施策を推進する
【行動指針】
- 仕事を通じた社会貢献と自己実現を重ね合わせて捉える
- 他人に対し公平、公正であり他の社員への協力と支援を惜しまない
- 自らの役割に照らし誰に対しどのような貢献をなすべきかを理解する
- 社会貢献の源泉となる独自の強みを形成しその強みを継続的に深耕・拡大する
- 自主的に課題を発掘し困難な課題に挑戦し解決に至るまで諦めない
会社の沿革1946年に香川県高松市に<関西理科研究所>を設立しました。
1947年に馬蹄型有鉄心マグネットモーターを馬渕健一氏が発案しました。
1954年に東京都葛飾区に<東京科学工業>を設立しました。
1955年8月に<日本科工>を設立しました。
1957年9月に輸出専門商社<馬渕商事>を設立しました。
1958年8月に<東京科学工業>と<日本科工>を解散し<馬渕工業>を設立しました。
1959年3月に<馬渕工業>の商号を<東京科学>に変更しました。
1971年3月に<東京科学>の商号を<マブチモーター>に変更しました。
1974年3月に群馬県館林市に<マブチ精工>を設立しました。
1977年7月に商号を<マブチ電工>と改め本店を千葉県松戸市へ移しました。
1992年4月に<マブチモーター>技術センターを千葉県印旛郡に建設しました。
2022年12月に小型ポンプメーカー<応研精工>を子会社化しました。
2024年8月に農地や災害現場を自走するロボットを手がけるCuboRex(キューボレックス)に出資しました。
同時に<OKI>の精密小型モーター事業の買収も発表しています。
従来の車載向けモーターが売上高の約8割を占める中単一事業への依存リスクが顕在化していました。
また産業用ロボットやファクトリーオートメーション分野での技術的優位性を確保する必要がありました。
高精度で位置制御が可能なステッピングモーターの技術を取得し産業機器や医療分野への事業領域拡大を目指しています。
新興企業への出資により従来にない用途開発も視野に入れた多角化戦略を推進する意図が読み取れます。
2025年2月に樹脂製のギアを製造する<オービー工業>の完全子会社化を発表しました。
買収額は非公表ですが<オービー工業>の2024年3月期売上高は40億円でした。
電気自動車(EV)の普及に伴いモーター単体ではなくギアと組み合わせた複合部品への需要が高まっていました。
自動車のドアロックやミラーEVのバッテリー周辺部品などより複雑な駆動システムが求められるようになったためです。
モーターとギアの複合部品を自社内で一貫開発できる体制を構築し付加価値の向上を図る戦略です。
<オービー工業>の耐熱性エンジニアプラスチック加工技術と中国・ベトナムの製造拠点も同時に取得してグローバル展開を加速させる狙いがあります。
2025年3月にインドのハリヤナ州に小型モーターなどを販売する子会社を設立しました。
資本金は約1億7000万円で2025年10-12月に営業を開始予定です。
インドの自動車市場拡大によりパワーウインドーやドアロックなど車載向けモーターの需要が急増していました。
これまではタイ拠点が担っていたインド向け販売を現地法人化する必要性が高まったためです。
日系自動車メーカーを中心とした販路拡大を図り成長市場における早期シェア確保を目指しています。
現地販売子会社の設置により顧客対応の迅速化と市場ニーズへの柔軟な対応を可能にする戦略です。
2025年4月に<オービー工業>の完全子会社化が完了し<マブチオービーギアシステム>に同日付で社名を変更しました。
同時期の決算発表では純利益が前年同期比51%減の33億円となりました。
為替の円高進行により為替差損を計上したのが業績に影響しました。
一方で車載向けブレーキ用中型モーターや電動歯ブラシ向けモーターの出荷は堅調に推移していました。
短期的な為替影響はあるもののM&A完了により複合部品の開発・製造体制を整備し中長期的な競争力強化を優先する判断を下しています。
新会社名によりギアシステム分野での事業ブランドを確立する狙いもあります。
2025年7月に<OKI>の小型モーター事業の取得が完了し新会社<マブチモーターマイクロテック>を福島県二本松市に設立しました。
これにより産業用ロボットやファクトリーオートメーション向けの製品群が拡充されました。
従来の車載依存からの脱却とより高付加価値な産業機器分野への参入が急務でした。
特に精密位置制御が求められる産業用ロボット市場の拡大に対応する技術獲得が必要でした。
<OKI>が保有していた精密モーター技術を活用し医療機器や先端産業機器向けの新規顧客開拓を進める戦略です。
車載以外の収益柱を育成し事業ポートフォリオの最適化を図る意図が明確に表れています。
2025年8月に『2025年12月期』の連結純利益を前期比29%増の165億円に上方修正しました。
同時に最大190億円の自社株買いと1株を2株に分割する株式分割も発表しています。
<オービー工業>買収による負ののれん発生益の計上や税金費用の減少が寄与しました。
一方でトランプ米政権の関税措置により自動車生産台数減少を織り込み売上高は下方修正となりました。
M&A効果を活用した収益改善と株式分割による投資家層の拡大を同時に実現する戦略です。
190億円という大規模な自社株買いにより株主還元を強化しながら資本効率の向上も図る総合的な資本政策を展開しています。
今日のまとめ2024年から2025年にかけての<マブチモータ>の動きは車載依存からの脱却と事業多角化を軸とした構造改革の側面が強く表れています。
しかしM&A に頼った急速な事業拡大は統合リスクや投資回収の不確実性も内包しています。
特に注目すべきは従来の強みである小型モーター技術を核としながらも
- ギア製造
- 精密制御技術
- 新興国市場開拓とマルチ方向に同時展開している点です。
中小企業にとっては同社の「コア技術を軸とした段階的多角化」のアプローチが参考になる一方で過度な拡大投資による財務負担の増加リスクも十分検討する必要があります。
変化する市場環境への対応力が企業存続の鍵となる現在自社の強みを活かしながらどこまでリスクを取って事業領域を拡大するかという判断が今後の経営における最重要課題となっています。


