「若手が何を考えているか分からない。」
そんな悩みを打ち明ける、経営者が増えています。
2026年6月、日本経済新聞が報じたJob総研(パーソルキャリア)の調査によると、上司の約7割が、部下の主体性不足に悩んでいます。
一方で、部下の62%は、上司の指示が曖昧だと感じています。
同じ職場で働きながら、見ている景色が、まったく違います。
部下が職場に求めているのは、心理的に安全な環境です。
しかし上司が重視しているのは、能力の開発です。
求めている点が違うまま、双方が歩み寄れずにいます。
調査では、「言わなくても分かるだろう」という一言が、摩擦を生む象徴的な発言として挙げられていました。
さらに今は、ハラスメントへの配慮と世代間ギャップへの遠慮が重なり、指摘しにくい時代になっているとも言われています。
パーソル総合研究所の「人事部トレンド定量調査2026」でも、人材育成は経営課題の45.3%を占め、人材確保に次ぐ重さになっています。
世代間ギャップは、もはや現場だけの悩みではなく経営の優先課題です。
放置すれば若手が定着せず、採用コストと教育コストが繰り返し発生します。
ベテランのモチベーションが下がれば、培ってきた技術や顧客対応のノウハウも、社内に残りにくくなります。
だからこそ、多くの会社が1on1の回数を増やし、対話の場を用意しようとします。
しかし、場を用意しただけでは、対話の質までは変わりません。
期待がズレたまま、1on1を重ねると、部下は話を聞いてもらえた気がしないと感じます。
上司は上司で、話しても響いていないと感じます。
問題は、対話の回数ではなく、期待の擦り合わせが行われていない点にあります。
しかも、回数を増やすほど、中間管理職の負担だけが重くなっています。
現場のリーダーは、上からは成果を求められ、下からは配慮を求められ、板挟みのまま疲弊しています。
制度を増やすほど、疲弊するのは経営者ではなく現場のリーダーです。
私はこれまで組織変革の支援で、ホワイトボードを使い、経営者や社員の頭の中にある論点を、その場で見える形にしてきました。
見える化すると、若手とベテランが、実は同じ課題を違う言葉で語っていたと気づく場面が、何度もありました。
うちの理念(MVV)は、若手には響かない。
そう感じていた経営者が、若手の言葉をそのまま書き出してみると、理念自体への反発ではないと分かる場合があります。
多くは、その理念が日々の仕事とどうつながるのか分からない、という戸惑いです。
これは、理念の中身の問題ではなく翻訳の問題です。
世代間ギャップの多くは、価値観が対立しているのではありません。
同じ価値観を、違う言葉で説明しているだけの場合が、少なくないのです。
だからといって、若手の言い分だけを優先すればいいわけではありません。
ベテランが積み上げてきた、経験や判断のコツには、若手が持たない価値があります。
一方で、若手が持つ新しい発想や感覚にも、ベテランが気づけない価値があります。
正解を一つに絞ろうとする姿勢自体が、世代間ギャップを対立に変えています。
世代間ギャップの解消を、懇親会や社内イベントの回数を増やすだけで済ませようとする会社もあります。
しかし、飲み会の席を増やしても、日々の指示や評価の場でのすれ違いは埋まりません。
必要なのはイベントの回数ではなく、日常の対話の設計を変える取り組みです。
まず有効なのは、「決める場」と「伝える場」を分ける方法です。
会議で方針を決め、その場でそのまま若手に説明すると、議論の過程が抜け落ちたまま結論だけが伝わります。
結論だけを受け取った若手は、納得できないまま従うしかありません。
決定の背景や葛藤まで含めて、伝える場を別に設ければ、若手はなぜこの結論になったかを理解できます。
理解できれば、指示された内容にも、自分なりの意味を見出しやすくなります。
もう一つ有効なのは、役職の上下を外し、得意分野で教え合う場をつくる方法です。
たとえば、月に1回、ベテランが若手に経験や判断のコツを教え、若手がベテランにデジタルツールの使い方を教える場です。
教える側と教わる側を、交互に入れ替えるのがポイントです。
役割が固定されたままだと、教える側は常に上という、上下関係が残ります。
役割を入れ替えると、互いに知らない部分があるという前提が共有され、対話のハードルが下がります。
そして、経営者自身が対話の場に顔を出し、方針の背景を自分の言葉で語る必要があります。
現場のリーダーに、世代間ギャップの解消をすべて任せきりにすれば、板挟みのまま矢面に立たされ続けた優秀なリーダーほど、辞めていきます。
世代間ギャップは、永続的に存在し続けるテーマです。
むしろ、扱い方を変えれば、組織の強みとして活かせる違いです。
若手の視点は、変化への感度として活きます。
ベテランの視点は、判断の安定感として活きます。
どちらも欠けたままでは、組織は、片方の足を引きずりながら進まざるを得なくなります。
若手とベテランの間で板挟みになっていると感じているなら、まず「決める場」と「伝える場」を分けてみてください。


