「今のやり方を、ずっと続けていきたい」
そう感じている経営者は、少なくないはずです。
経験を積むほど、今のやり方が最善だと感じやすくなります。
しかし、その感覚こそが、新しい可能性を狭めているのかもしれません。
マイナビキャリアリサーチLabが2026年8月に発表した調査があります。
対象は、20代から50代の正社員4,096人です。
65歳以降も働き続けたいと答えた人のうち、管理職の77.3%が、慣れ親しんだ仕事や職場で働き続けたいと答えました。
非管理職は65.1%で、その差は12.2ポイントです。
役職が上がるほど、今のやり方から離れがたくなる傾向が、数字にも表れています。
役職や肩書きに、自分自身の価値を重ね合わせている人ほど、その傾向は強くなります。
新しい役割へ移るという選択は、積み上げてきた立場を手放す動きのように、感じられるのでしょう。
同じ調査では、正社員が働き続けたいと考える年齢の平均は62.0歳でした。
2023年から1.8歳上昇し、調査開始以来はじめて、全年代で60歳を超えています。
65歳以降も働きたいと答えた人は、30.1%に上りました。
年齢を重ねても、働く意欲を持ち続けている人が、確実に増えています。
私はこの結果に、強く共感します。
ミドルシニア世代が積み重ねてきた経験、失敗、成功は、若い世代にはない財産です。
その財産を手放したくない、これまでのやり方を続けたいと思う気持ちは、よく理解できます。
同じ調査では、職場での承認や称賛を感じている人は、全体で37.2%でした。
65歳以降も働きたいと答えた層に限ると、その割合は41.9%まで上がります。
認められている実感がある人ほど、長く働きたいという意欲が強くなるようです。
経験を評価される実感こそが、働く意欲を支えているのでしょう。
ただし、業種や職場の規模によって、この傾向の強さは変わってくるはずです。
すべての会社にそのまま当てはまるわけではないと、断っておきます。
ここまでは、経験を活かし続ける価値を裏づける話です。
しかし、一つだけ考えてみてほしい点があります。
自分の人生は、一度きりしかありません。
人生を振り返ったときに残る後悔は、やった後悔よりも、やらなかった後悔だとよく言われます。
これは、今のやり方を変えるべきだと、強制する話ではありません。
慣れ親しんだ仕事を続ける姿勢に、異を唱えているわけでもありません。
ただ、今までと違う仕事や立場、役割に挑戦してみるのも、面白いのではないかと思っています。
私自身、長くサラリーマンとして働いたあと、会社を立ち上げました。
そこで、コンサルタントという、それまでとは全く別の職業に転じました。
その間、大学で学生の前に立ち、LLPや一般社団法人など、数多くの組織を立ち上げてきました。
振り返れば、辛かった記憶よりも、楽しかった記憶のほうが多く残っています。
私の人生の師匠から、かつてこう言われました。
人生は一度きり、夢を見て思いつくままに挑戦してみるのも、面白い人生だ。
この言葉の意味が、今になってようやく分かるようになりました。
中小企業の現場では、ベテラン社員にこう伝えている会社が、少なくありません。
「今までどおり頑張ってほしい」、それだけを伝えている会社です。
役割を変えずに経験だけを期待すると、本人は今の場所に留まる以外の選択肢を、持てなくなります。
それは、本人にとっても会社にとっても、大きな損失です。
会社の側だけを責めるのも、正しくはありません。
経験のある本人も、これまでのやり方に安住していないか、一度振り返ってみる必要があります。
経営者が今すぐ着手できる点は、大きく二つあります。
一つは、ベテラン社員に対し、今どんな役割を期待しているかを、あらためて言葉で伝える取り組みです。
もう一つは、経験を活かせる新しい役割を、あえて用意する取り組みです。
若手との橋渡し役や、他部署との連携役など、経験がそのまま強みになる場面は、意外と多くあります。
経験という財産は、同じ場所で使い続ける道も、新しい場所に持ち込んで試す道も選べます。
経営者自身も、同じです。
会社を長く経営してきたからこそ、今のやり方を変える決断に、慎重になりがちです。
これまでのやり方を守る姿勢に、無意識のうちにブレーキをかけていないでしょうか。
もし今、新しい領域や役割への挑戦を、心のどこかで諦めていると感じるなら、一度だけ自分に問いかけてみてください。
このまま今の場所に留まり続ける道と、新しい挑戦をしてみる道と、どちらが後悔しない選択でしょうか。
答えを急ぐ必要はありません。
私自身、挑戦を決めた瞬間に、答えが分かっていたわけではありませんでした。
やってみて、初めて見えてくる景色が、想像していたよりずっと多かったのです。
ただ、経験という財産を、これまでと同じ形でしか使えないと決めつけずにいてほしいと思います。
長く現場に立ち続けてきたからこそ見える景色を、次の挑戦にも活かしていけるはずです。
その一歩を、これからも応援していきたいと思います。
【出典】マイナビキャリアリサーチLab「ミドルシニアの働く意識に関する実態調査」(2026年8月28日発表)、渡邉ひとし本人へのヒアリングより(2026-09-15)


