- 原材料高騰
- 人手不足
- 物流コスト増大
- 国内市場の成熟化
中小企業の経営者はこれらの課題に日々直面されています。
限られた経営資源でどこに投資し何を切り捨てるべきか。
その判断に迷われている方も多いはずです。
中小企業も大企業も日本の市場においては同じ外部環境のもとで懸命に営業活動をしています。
しかしその対応策は必ずしも中小企業にとって正解とは限りません。
今回はライオンの直近の経営判断を時系列で追いながらその戦略の妥当性を検証します。
大企業の課題や経営判断を観察して自社の経営のヒントにしてください。
今日の企業事例は第518話*画像はイメージですミッション、ビジョン、バリュー【社是】「愛の精神の実践」を経営の基本とし人々の幸福と生活の向上に寄与する。
【企業理念】パーパス、ビリーフス、DNAの3つで構成されています。
【パーパス:存在意義】より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献する(ReDesign)【ビリーフス】Beliefsは、多様化が進む社会においてPurposeを実践するために私たちが携えるべき「信念」であり日々の考え方・行動・判断の拠り所です。
ライオンで働くすべての人は常にBeliefsのもとに暮らしの中に新たな課題を発見し高いプロ意識を持って仕事に取り組んでいます。
- 価値は顧客が決める
- 自分の心に従い、自ら動こう
- スピードは世界を救う
- 化学反応を起こそう
- 変化こそ、私たちを進化させる
【DNA:創業から受け継ぐ想い】「愛の精神の実践」会社の沿革1891年10月に小林富次郎氏によって小林富次郎商店として創設しました。
1896年に粉歯磨き『獅子印ライオン歯磨』を発売しました。
1918年9月に株式会社小林商店に改組しました。
1919年8月に石鹸部門を分離しライオン石鹸株式会社を設立しました。
1940年9月にライオン石鹸株式会社をライオン油脂株式会社に改称しました。
1949年2月に株式会社小林商店をライオン歯磨株式会社に改称しました。
1980年1月1日にライオン歯磨とライオン油脂が対等合併しライオン株式会社を発足しました。
2011年10月30日に創業120周年を迎えました。
2023年4月3日に本社を墨田区本所から台東区蔵前のJPライオンビルディングへ移転を完了しました。
2024年5月にライオン、ユニ・チャームなど14社が日用品サプライチェーン協議会を設立しました。
物流の「2024年問題」によるドライバー不足が深刻化し荷待ち時間削減やトラックの積載効率向上が業界共通の急務となったためです。
日用品のトラック貨物量は物流全体の4.5%を占め個社での対応には限界がありました。
従来の競争関係を超えて物流データの連携や行政への働きかけを共同で行う体制を構築しました。
ただし競合同士の連携がどこまで実効性を持つかは未知数です。
情報共有の範囲や利害調整の難しさが懸念されます。
2024年10月に投資ファンドのJACがライオン株式の5%弱を数百億円で取得しました。
ジャパン・アクティベーション・キャピタルは短期利益を追求するアクティビストとは異なり経営陣と協調して中長期的な企業価値向上を目指すファンドです。
時価総額2,500億~2兆円規模の企業を投資対象としています。
JACの専門人材を活用し特にアジアでの洗剤事業の収益改善と国内ブランドの選択と集中を推進する方針です。
ただし外部資本の介入による経営スピードの変化に組織が対応できるかが課題となります。
2025年4月に歯科医院と連携したオンライン支援サービスOraCo(オラコ)の提供を開始しました。
オーラルケア市場でトップシェアを維持しているものの商品力だけでは成長に限界があり予防歯科の習慣化という根本課題への取り組みが必要でした。
歯科指導を受けても数日で内容を忘れる患者が多いという実態がありました。
AIではなくライオン所属の歯科衛生士による個別チャット対応という労働集約的モデルを選択しました。
最大3カ月間の支援期間で習慣化を促します。
しかし人的コストが高くスケールアップには限界があります。
収益化までの道筋も不透明です。
2025年7月にベトナムで医薬品事業を手掛けるメラップライオンの株式を追加取得し36%出資の持分法適用会社から完全子会社化しました。
ベトナムでは女性の社会進出が進み生理痛などへの対処を含む医薬品需要が拡大しています。
アジア市場での成長加速が急務となっていました。
メラップライオンが持つベトナム全土の薬局や病院への販路を活用し歯磨き粉やボディーソープなど日用品全般の販売拡大を図ります。
2030年までに海外売上高比率を現在の36%から50%に引き上げる目標を掲げていますがユニリーバなど現地で先行する競合との差別化戦略が不明確です。
2025年9月に小田原工場敷地内に約180億円を投じた新医薬品工場を稼働させ解熱鎮痛薬バファリンの生産能力を約1.4倍に高めました。
国内の解熱鎮痛薬市場は2022年の797億円をピークに成長が鈍化しました。
一方でインバウンド向け販売比率は6%前後と堅調です。
また既存工場の老朽化とコロナ禍での出荷制限経験から供給体制の再構築が必要でした。
日本の小田原工場からアジアの小田原工場へという位置づけ転換を図り北東アジアへの輸出も視野に入れています。
しかし各国の薬事規制への対応や180億円という巨額投資の回収計画の妥当性には疑問が残ります。
2025年10月にAWSジャパンと協力しアリババの生成AI基盤モデルQwenをベースとした独自の大規模言語モデル(LLM)の開発を開始しました。
製造現場では熟練技術者の退職により長年蓄積された暗黙知が失われるリスクに直面しています。
貴重な知識やノウハウの継承が経営課題となっていました。
- 研究報告書
- 製品情報
- 品質評価データなど社内知見を学習データとして投入し
生産現場のDXと競争力向上を目指します。
ただしAI開発・運用コストと実際の生産性向上効果のバランスは不透明です。
中国企業のAI基盤を使用するセキュリティリスクも考慮が必要です。
今日のまとめライオンのビジネスモデル転換は典型的な総花的戦略の様相を呈しています。
事業売却による選択と集中を進める一方で
- 180億円の工場投資
- 海外M&A
- AI開発
- 新サービス立ち上げなど
あらゆる方向に資源を投入しています。
特に注目すべきはこれらの施策の時間軸のズレです。
工場投資の回収には10年単位AI開発の効果測定には数年海外展開の成果も中長期的な視点が必要です。
しかし株式の5%を取得したJACの存在により短期的な成果への圧力も無視できません。
中小企業の経営者が学ぶべきは『やらないことを明確にする』重要性です。
ライオンのような資金力があっても全方位戦略にはリスクが伴います。
まして経営資源に制約がある中小企業ではより慎重な優先順位付けが不可欠です。
物流協議会のような競合との協調は個社では解決できない構造問題への現実的アプローチとして参考になります。
一方で大企業の戦略をそのまま模倣することは危険です。
段階的な実行と撤退基準の明確化が中小企業には特に重要となります。


