アンケートを取れば取るほど、社員の本音から遠ざかっている会社があります。
従業員サーベイの結果を、経営会議で眺めて、それで終わりにしていないでしょうか。
パーソル総合研究所が2026年6月に、「従業員サーベイに関する定量調査」を発表しました。
対象は、全国の300人規模以上の企業に勤める、20〜64歳の方々です。
従業員調査では、1年以内にサーベイが実施された会社の正社員2,500人に尋ねています。
調査時期は、2026年3月です。
従業員サーベイの実施率は76.7%で、過去5年以内に始めた企業が52.8%を占めます。
ここ数年で、急速に広がったと分かります。
ところが、従業員の45.9%が「回答しても変化を感じない」と答えています。
44.5%は、サーベイを「形式的な取り組みに感じる」と答えました。
結果の活用で最も多いのは、「経営会議での報告」の69.8%です。
現場との対話への活用は、約半数にとどまっています。
同調査では、サーベイの有用感を下げる要因が挙げられています。
「会社が本気で取り組んでいると感じない」や、「どうせ変わらないという諦めがある」などです。
パーソル総合研究所の小林祐児主席研究員は、実施自体が人事の定期ルーティンになっている点を、最大の課題と指摘しています。
つまり、調べる会社は増えたのに、従業員へ変化が届いていない会社が多いのです。
ただし、これは300人規模以上の企業を対象にした調査です。
社員数十人の会社に、そのまま当てはまるとは限りません。
それでも、聞いた後に、何も変わらなければ従業員が離れていく、という構図は、中小企業にも共通すると考えます。
私は前職の広告業界で、マーケティングリサーチにも関わってきました。
その経験から、アンケートの成果は、期待ほど高くないと感じています。
理由は、回答する人の姿勢が、結果を大きく左右するからです。
厳しい意見を書くのをためらう人は、どうしても甘く書きます。
逆に、批判的な人は、少し強めに書きます。
同じ職場を見ていても、人のタイプによって回答が変わるのです。
さらに、書く時の気分にも左右されます。
気分のよい日と悪い日、幸せな時期とそうでない時期では、書く内容が変わりがちです。
「大した調査ではない」と思って書く人と、結果を出したいと思って書く人でも、書き方は違います。
つまり、アンケートは、求める側と書く側の期待がすれ違いやすい手法です。
もう一つの問題は、目的の曖昧さです。
「社員のモチベーションを知りたい」という漠然とした目的では、従業員に還元できる内容がほとんどありません。
それでは、回答する側が本気になれないのも当然です。
そして、最も警戒したいのは、結果を見ても何もしない場合です。
経営層が数字を見て「こんなものか」と済ませると、従業員は学習します。
意見を書いても何も変わらないなら、書くだけ無駄だ、と考えるようになります。
心理学では、これを『学習性無力感』と呼びます。
こうなると、二度目、三度目のアンケートは、さらに形だけの回答になります。
結果が返ってこない場合も、同じ結果を招きます。
回答した人は、自分の声がどうなったのかを知る手段がないからです。
このまま実施だけを続ければ、サーベイは、社員の諦めを数字で集める作業になりかねません。
では、どうすればよいのでしょうか。
第一に、「調査をする」という姿勢から、「意見を聞かせていただく」という姿勢に切り替えます。
そのために、まず経営側が、何を変えたいのかという目的を決めます。
次に、その目的に沿って、少人数のインタビューや1対1の場を設けます。
対面であれば、表情や間合いも分かり、その場で「なぜそう思うのですか」と聞き返せます。
ただし、時間がかかりますし、聞く側の姿勢や力量にも左右されます。
それでも、本気で聞こうとする姿勢が伝われば、従業員も本気で答えてくれるはずです。
第二に、結果を必ずフィードバックします。
出てきた意見のすべてを、実行する必要はありません。
2つでも3つでも、実際に行動を変えて見せてください。
意見を言えば、今までと違う行動に変わる。
その実感があって初めて、次の調査の信憑性が高まります。
第三に、日頃の対話、とりわけ『雑談』を大切にします。
身構えたテーマで話すより、さりげない自然体の雑談の方が、本音に近い答えが出てきます。
毎日の雑談の中で出てくる一言が、年に一度のアンケートより、本当の課題を示している場合もあります。
サーベイは、日頃の対話の代わりにはなりません。
忙しい中でも、社員の声に向き合おうとしている経営者を、私は心から応援しています。
あなたの会社では、直近のアンケートの結果を受けて、何を1つ変えましたか。
そして、その変化を、社員に伝えられていますか。
【出典】パーソル総合研究所「従業員サーベイに関する定量調査」(2026年6月26日発表)https://rc.persol-group.co.jp/news/release-20260626-1000-1/


