コロナ後、「客足が戻っても利益が残らない」という声を、複数の飲食業の経営者から聞いてきました。
原材料費、人件費、光熱費は上がり続け、テイクアウトやデリバリー、SNS対応まで加わっています。
忙しさだけが増して、手元に残る利益が少ない日々が続いています。
解決策は、集客の強化ではなく、収益モデルの再設計にあります。
どの商品で利益を確保するか、誰のための店かを明確にした上で、現場が迷わず動ける組織に作り直す取り組みが求められます。
なぜなら、現場の混乱の多くは人手不足ではなく、「設計の不備」から生まれているからです。
今回は、飲食業の収益モデル再設計と組織変革の手順を整理します。
飲食業の組織変革は「収益モデルの再設計」から始める
コロナ前の飲食業の収益構造は、「来店客数×客単価」で成立していました。
ところが今は、コストの上昇幅が利益率を上回っています。
集客を増やすだけでは、収益は改善しません。
前職では広告やマーケティングの現場で6万件超の案件に関わり、中小企業の経営相談も延べ1,200件以上を重ねてきました。
そこで繰り返し見てきたのは、施策を増やすほど現場が複雑になり、利益が薄くなるという構図です。
飲食業でも、この構図は繰り返されています。
取り組む順番は明確です。
まず、自社のどの商品に粗利が残るかを確認します。
次に、繰り返し来店する顧客層を絞り込みます。
「家族客」「常連客」「仕事帰りの客」では、適切な価格や接客、営業時間の設計が変わります。
全員に対応しようとする運営は、現場の負荷を高め、どの顧客にも中途半端になるリスクがあります。
利益率が低い商品を残したまま販促を強化しても、忙しさだけが増えます。
中小企業に必要なのは、広げる戦略より「絞る」判断です。
【モデル事例】
ランチや夜営業、テイクアウトを同時に展開していた飲食店がありました。
売上機会は広がりましたが、仕込みが細分化し、提供遅れや欠品が続くようになっていました。
スタッフの疲弊も積み重なり、採用と離職のコストも増していました。
そこで、粗利が確保できる主力商品を絞り込み、注文が集中する時間帯に合わせて仕込みを組み直しました。
提供スピードが安定し、スタッフが動きやすい環境が整いました。
商品を減らす判断が、利益と組織の両方を守った事例です。
現場が自律的に動く組織は「判断基準の言語化」で作る
収益モデルの方向が定まったら、次は組織設計の見直しに入ります。
ここで多くの経営者が直面するのは、「優秀な店長がいるうちは何とかなる」という認識です。
しかし、その構造が組織の弱さを生んでいます。
飲食業でよく見られるのは、優秀な店長が判断のすべてを担っている運営です。
- 売上管理
- クレーム対応
- シフト調整
- 人材育成
これらを一人で抱えています。
その店長が不在になると、店舗の機能が急に落ちます。
これは人材の問題ではなく、経営者が判断基準を言語化していない点に原因があります。
『組織心理』の支援を通じて、多くの職場の内側に関わってきた経験から、共通して見えてきた点があります。
判断の基準が見えない職場では、人の動きが鈍くなります。
逆に、線引きが明確であれば、スタッフは自分から動けるようになります。
- 予約変更の対応
- 欠品時の代替案
- クレームの初動
- 値引きの可否
これを具体的に、あらかじめ決めておく必要があります。
これらを店長の経験に委ねると、属人的な運営が続きます。
スタッフは都度確認し、店長は都度判断します。
この繰り返しが、組織全体の疲弊を生みます。
デジタルツールの導入も、業務手順が整ってから行うべきです。
先に決めるべきは、誰が・いつ・何を判断するかです。
【モデル事例】
複数店舗を展開する飲食会社A社で、店舗ごとに接客対応のばらつきが常態化していました。
ある店では柔軟に対応し、別の店では同じ内容を断るという差が、顧客の不満につながっていました。
そこで、「予約変更」「欠品」「クレーム」への判断基準を文書化し、全店舗で共有しました。
さらに、店長会議の議題を「売上報告」から、「判断に迷った場面の共有」に切り替えました。
特定の店長の経験に頼る運営から、組織全体で解決する運営に移行した事例です。
今日のまとめ
コロナが終息して久しいですが、いま飲食業に求められているのは、回復への努力ではなく、収益モデルの再設計です。
「どの商品で利益を残すか」「誰のための店か」を明確にし、スタッフが判断基準をもとに自律的に動ける組織を整えてください。
現場に無理をさせる前に、経営者が複雑さを減らす判断を先に行います。
商品や顧客、判断基準を整理する取り組みから、少人数でも利益が残る飲食業の経営が生まれます。
大きな変革を一度に行う必要はありません。
まず、増えすぎている業務を、一つ減らすところから着手してください。
そこが、現実的な組織変革の入り口になります。


