【なぜ経験を積むほど、新しい情報を受け入れにくくなるのか?】経験を武器にする2つの方法
「若い頃なら一晩で決められたのに、今は迷ってばかり…。」そう呟いているミドルシニアの方はいませんか。
パーソル総合研究所が独自に実施した定量調査があります。
ミドル・シニア層は、アンラーニングの経験がある人とない人が、ほぼ半々に分かれます。
有りが49.8%、無しが50.2%です。
ほぼ二人に一人が、過去の成功体験や価値観を手放せずにいる計算になります。
さらに、年齢を重ねるほどアンラーニングは減っていきます。
変化を抑える意識は、逆に強まっていくと分析されています。
経験が増えるほど、新しい情報を素直に受け止める力は、むしろ弱まりやすいのです。
これは、「経験があるからこそ情報に振り回されない」という話の、あまり語られない裏側の事実です。
経験は、確かな判断の武器になります。
しかし放置すれば、新しい情報を遮断する、分厚い盾にも変わります。
ミドルシニア世代の経営者ほど、この二面性を自覚する必要があります。
私はこれまで、経営者やリーダーの判断を整理する支援を続けてきました。
1,200件を超える経営相談に対応してきましたが、相談の場で実によく見かけるのは、二つの極端な姿です。
一つは、若い社員やネットの意見に流され続け、方針が定まらない経営者です。
もう一つは、自分の成功体験を頼りにし、部下の意見を、知識不足からくる甘い考えとして片づけてしまう経営者です。
しかし部下が抱く違和感は、しばしば時代の変化を感じ取った信号でもあります。
それを聞き流せば、経験を更新する機会を、自ら手放してしまいます。
経験が判断軸として機能するのは、それが「検証済みの仮説」として扱われているときだけです。
過去にうまくいった方法を、時代が変わった今も無条件に正しいと思い込むと、経験は思考停止の言い訳に変わります。
逆に、「あの時は、なぜ上手くいったのか」と問い続ける姿勢があれば、話は違ってきます。
新しい情報が入ってきても、何を採用し何を捨てるかを、自分の言葉で判断できるようになります。
具体的な方法は、2段階です。
まず自分の中で、この情報は自分の経験の「どの部分と重なるのか」「時代が変わった今も通用するのか」を問います。
次に、経験の浅い社員や後継者に、あえて率直な感想を聞きます。
たとえ反論が出ても、それは「経験」への否定ではありません。
時代の変化を映す貴重な情報です。
教える場面と確かめる場面を、意識して切り分けられる経営者ほど、この検証を自然に実践しています。
私が支援の場でホワイトボードを使うのも、この検証を見える形にするためです。
過去の経験と新しい情報を並べて書き出し、重なる部分と明らかにずれる部分を色分けします。
頭の中だけで考えると、経験の方が声が大きく、新しい情報はつい弱く扱われがちです。
書き出して並べる作業を通じて、初めて対等に比較できるようになります。
可視化した瞬間に、実は自分が思っていたほど頑固ではなかったと気づく経営者も、決して少なくありません。
広告企画の現場で6万件を超える案件に関わってきた私自身にも、心当たりがあります。
過去に評価された手法が通用すると思い込み、若手の提案を軽く扱ってしまった経験があります。
あとから振り返れば、あれは経験に守られて、手間を省いていただけでした。
「意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである」と、ピーター・ドラッカーは述べています。
ミドルシニアの経験と若手の意見が一致しないときこそ、判断を急がず、対立点をじっくり見きわめる好機です。
対立を避けて経験だけで押し切れば、その場はうまく収まっても、現場との溝は少しずつ広がっていきます。
正しさをただ強く主張するだけでは、人はついてきません。
もし今、若手の意見やAIの情報に振り回されていると感じるなら、経験を捨てる必要はありません。
ただし、『経験』を絶対の正解として一人で抱え込むのもやめましょう。
パーソル総合研究所の調査が示すとおり、年齢を重ねるほど、意識しなければ変化を抑える方向へ流れやすくなります。
これは、誰にでも起きる自然な傾向です。
ご自身の判断の根拠になっている経験を一つ選び、信頼できる部下や後継者に、「今も通用するだろうか」と聞いてみてください。
答えに詰まる様子があれば、そこが更新すべき部分です。
その実践こそが、経験を資産として育て続ける、確かな一歩になります。


