【「情報を集めるほど決められない」を防ぐ、経営者がすぐできる2つの習慣】
「調べれば調べるほど、決められなくなりました。」ある経営者から、困った様子で打ち明けられました。
帝国データバンクが2026年1月20日から2月6日にかけて調査を実施しました。
「企業の経営課題に関するアンケート」では、経営層・マネジャー5,241件から回答を得ています。
小規模企業のうち44.2%は、事業計画を中期計画ではなく都度対応で決めていると答えました。
一方、大企業・中堅企業の多くは3〜5年の中期計画を軸にしています。
同調査は、AI活用やデータ活用基盤の整備で企業規模間に格差があると指摘しています。
この格差は、「意思決定のスピードやサービスの質の差にもつながりつつある」とされています。
一見、情報や選択肢が多いほど、良い決断ができそうに思えます。
しかし現実は逆です。
判断基準を持たないまま情報だけを集める経営者は、選択肢が増えるほど迷いも増えていきます。
都度対応が染みついた会社ほど、判断のたびに一から情報を集め、一から悩み、一から結論を出します。
社員には理由が共有されないまま結果だけが伝わり、次に似た場面が来ても、社員は自分では判断できません。
私はこれまで、戦略立案から事業計画まで、経営者の判断を整理する支援を続けてきました。
相談を受ける経営者は情報が足りないのではなく、情報を評価する物差しを持てていません。
さらに今は、生成AIが判断を後押しする存在として広まっています。
帝国データバンクの別の調査によれば、生成AI活用の懸念として最も多い回答は「情報の正確性」で50.4%にのぼりました。
便利な道具が増えたはずなのに、何を信じればよいのかという迷いは、むしろ増えています。
私自身、40代前半に、将来への行き詰まりや自分の存在意義への問いに向き合った時期があります。
あのとき苦しかったのは、情報が足りなかったからではありません。
何を軸に考えればよいのかが分からず、あらゆる情報が重く感じられたからです。
優先順位が定まっていない場面では、判断力を奪います。
経営の場面でも、これとよく似た迷いが起きています。
私が支援の場でホワイトボードを使うのも、この曖昧さを取り除くためです。
頭の中で渦巻いている情報を、その場で書き出し、優先順位ごとに並べ替えます。
並べ替えるだけで多く情報は、実は、今回の判断に関係のない周辺情報だったと判明する場合もあります。
情報が足りないと感じる不安の多くは、情報量ではなく、整理の欠如から生まれています。
可視化した瞬間に、今すぐ判断できる材料がすでに揃っていたと気づく経営者は、決して少なくありません。
具体的な処方箋は、二つです。
まず判断に迷ったときは、情報を増やす前に、何を最優先にするかを紙に書き出してください。
次に、大きな判断を一つ下したら、「何を優先したか」「何を切り捨てたか」も一行書いてください。
これが数件たまるだけで、会社なりの判断基準が自然と浮かび上がってきます。
支援している製造卸会社でも、年商が2倍以上に伸びました。
その過程で、価格決定や仕入れ判断のルールを、一つずつ文書化していきました。
「意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである」とピーター・ドラッカーは述べています。
裏を返せば、対立点が見えているのに決められないのは、判断基準が定まっていない証拠です。
情報を集める作業は、対立点を見つけるための手段にすぎません。
判断の速い会社と遅い会社の差は、判断の理由を組織の資産として、残しているかどうかの差です。
私自身、独立後に1,200件を超える経営相談に対応してきましたが、判断が速い会社ほど、過去の判断を振り返る習慣を持っています。
うまくいった判断も、迷った末に外れた判断も、記録に残す価値があります。
振り返りの積み重ねが、都度対応の会社を、判断基準を持つ会社へと少しずつ変えていきます。
記録を残す作業は、経営者一人で抱える必要はありません。
ミドルマネジメントや現場担当者と一緒に、なぜそう決めたのかを振り返る時間を設けてみてください。
社長にしかなかった判断基準は、少しずつ現場の言葉になっていきます。
情報を集める作業に逃げ込みたくなる気持ちは、私にもよく分かります。
決断には責任が伴う分、情報収集の方が、一見安全に見えるからです。
しかし判断を先延ばしにしている間も、現場は答えを待ち続けています。
次の判断に迷ったときは、情報を増やす前に、まず何を最優先にするかを紙に書き出すところから始めてみてください。


