新しい事業や設備投資、あるいはAIの導入やM&Aの話が出るたびに、判断を先送りにしていませんか。
多くの経営者は、投資に伴うリスクを恐れるあまり、決断を先延ばしにしてしまいます。
今は様子を見て、業績が上向いたら考えようという声を、私は何度も聞いてきました。
しかし今のまま何もしなければ安全というのは、実は思い込みに過ぎません。
中小企業庁は2026年4月に「2026年版中小企業白書・小規模企業白書」をまとめました。
そこでは、経営環境の転換期における現状維持こそ最大のリスクだと明記されています。
賃上げの原資を確保し、深刻化する人手不足を乗り越えるには、稼ぐ力を高める以外に道がないという指摘です。
その根拠となるデータが、成長投資に取り組んだ企業と、取り組んでいない企業の比較です。
成長に向けた設備投資に取り組んだ企業の付加価値額の増加率は、22.0%でした。
一方、取り組んでいない企業の増加率は、15.2%にとどまっています。
AIの活用についても、同じ傾向が確認できます。
成長に向けてAIを活用した企業の付加価値額の増加率は23.0%、活用していない企業は17.9%でした。
人材育成についても、白書は興味深い数字を示しています。
実務を通じたOJTと、外部研修などのOFF-JTを両方とも行っている企業の付加価値額の増加率は22.6%でした。
一方、どちらも行っていない企業の増加率は15.4%にとどまっています。
設備投資でも、AI活用でも、人材育成でも、傾向はほぼ同じです。
数字だけを見れば、踏み出した企業の方が有利だと誰でも分かります。
それでも多くの経営者が投資に踏み切れないのは、判断の軸が、儲かるかどうかという一点に偏っているからだと感じています。
儲かるかどうかは、実際にやってみなければ分からない部分が、どうしても多く含まれます。
だからこそ、儲かるかどうかだけを基準にすると、いつまでも様子見が続いてしまいます。
経営心理士として現場を見ていると、人には目の前の損失を避けたい気持ちが強く働く傾向があります。
その気持ちが強いほど、新しい選択肢よりも、今のやり方にとどまりたくなります。
これは意志の弱さではなく、多くの人に共通する自然な心の動きです。
だからこそ、経営者一人の判断力に頼るのではなく、外から問いを投げかける伴走者の存在が要ります。
私が代表を務める会社の社名は、未来デザインカンパニーといいます。
顧問先の投資判断に立ち会うとき、最初に確認するのは、その投資が自社のミッションやビジョンと整合しているかです。
今は扱っていない事業や商品、サービスであっても、自社が描く未来設計図に合致するなら、投資の対象として検討する価値があります。
反対に、どれほど利益が見込めそうでも、自社の未来設計図から外れているなら、その投資は本業の軸をぶらしかねません。
ミッションやビジョンとの整合性を確認したうえで、次に見るのは、その投資を回収できる目処が立つかです。
回収の目処とは、いつまでに、どれくらいの手ごたえが得られそうかを、大まかにでも言葉にできるかどうかを指します。
問い合わせや商談が、すでに具体的に動いているかどうかも、有力な判断材料になります。
回収の見通しを具体的に描けるかどうかが、最終的な合否を分ける判断基準になります。
儲かりそうという直感ではなく、未来設計図との整合性と、回収の目処という2つの軸で見ていきます。
そうすると、投資すべきかどうかは、驚くほど明確になっていきます。
白書には、価格転嫁についても、同じ構図のデータが示されています。
仕入れコストの上昇分を75%以上転嫁できている企業の付加価値額の増加率は21.1%でした。
一方、転嫁できなかった企業の増加率は13.2%にとどまっています。
値上げを言い出せずに様子を見続けるのも、投資を先送りにするのも、根っこは同じ判断の避け方だと感じています。
もちろん、すべての投資判断が、この2つの軸だけで割り切れるわけではありません。
業種や資金繰りの事情によって、実際に踏み込める範囲は変わってきます。
それでも、白書が示す22.0%と15.2%の差は、判断を先送りにした企業と、軸を持って踏み出した企業の差だと私は受け止めています。
現状維持を選ぶ判断自体は、悪くありません。
ただし、それが未来設計図に基づいた選択なのか、決断を避けているだけなのかは、経営者自身が見極める必要があります。
あなたの会社が今検討している投資は、儲かりそうだからという理由だけで判断していませんか。
それとも、自社の未来設計図に照らして、踏み出す理由を語れるでしょうか。
【出典】[中小企業庁『2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要』(2026年4月)](https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2026/PDF/2026gaiyou.pdf)


